能登・イルカ伝説と陰陽道 vol6―活断層とレイライン―
 
  泰澄の仕掛け

 前ページの地図をもう一度見直してほしい。珠洲の突端の鉢ヶ崎と能登島の北端の八ヶ崎は、ともに石動山を聖地として整備した泰澄に関係した場所だ。

 八ヶ崎は、元は珠洲と同じ鉢ヶ崎と表記していた。この地名の由来となったのは、それぞれの土地に住んでいた魔物を法力で退治した泰澄が、その魔物の復活を妨げるために経を記した鉢を埋めて結界を張った故事に因んでいる。

 泰澄が埋めた鉢は、見事にこのレイライン上に位置している。それは、何を表しているのだろうか? 泰澄は、このレイラインに秘められたどんな力を利用して、魔物封じの結界を張ったのか?

 その一つの答えは、現代科学が説明してくれる。

 前に平国祭のところで紹介した気多大社と七尾の気多本宮を結ぶラインは、イルカラインにほぼ合致している。何故、「ほぼ」と但し書きするかというと、ぼくが他の項で「ラインが並行している」とか「ラインが合致している」と表現する場合、かなり厳密な基準を設けている。その基準からすれば、ここではとても「合致」するとは言えない。ここで、「ほぼ合致している」とあえて言うのは、ここにある幅を持ったベルトが存在しているからだ。

 羽咋から七尾にかけては、山に挟まれた平地が能登半島を分断するように伸びている。この地下には、邑知潟断層帯と呼ばれる幅の広い活断層が走っている。イルカラインも平国祭のルートも、この活断層に沿っているのだ。

 大国主神は、気多に上陸した後、この活断層に沿って南西から北東へ進み、能登の国を平定していった。その先、この活断層の延長上で、シャーマンに呼び寄せられたイルカが岸にやってきた。そして、泰澄は魔物を封じる結界をそこに張った。

 最近の研究で、多くのレイラインが活断層に沿っていることが報告されている。そして、活断層上では、電磁波の異常が見られ、それが、人間の脳の側頭葉に作用して幻覚を生み出すことがあることもわかっている。地質調査の仕事に携わる人たちの間では、地磁気の異常や自然放射線の高い場所には、神社仏閣や遺跡が多いことは周知のことだった。

 すると、能登のイルカラインは、邑知潟断層帯の影響で、人が幻覚をみたり、イルカが感覚を狂わされたことを表しているともいえる。

 ただ、前回紹介したように、「初穂」の儀式が行われなくなったとたん、寄りイルカがやってこなくなったということは、それだけでは説明がつかない。

 ぼくは、こう思う。もともと、活断層などの影響で、人間が異常感覚を引き起こされ、そこを「聖地」として区別する。そして、聖地として区別された場所は、人間が、それを意識することによって、さらに聖地としての正確を強めていく。そこには、人と土地のコラボレーションが生まれ、相互にフィードバックして、土地は人の意識に感応するようになる。

 大地は、やはり生きていると、ぼくは思う。いや、実感する。ずっと、能登について持ってきた自分の感覚が、能登という土地と深くつき合えばつき合うほど深くなる。そして、この土地とのコミュニケーションがスムーズになっていく。

 そして、ぼくという人間が、能登の土地を意識して語り合うことで、またその土地も息づいてくるような気がする。

 前にも、他の項で書いたが、レイラインは、地球という身体を走る経絡のようなもので、聖地はツボであり、ツボに打たれた鍼のようなもの。そして、鍼を目印に経絡を人が辿ることによって、地球は活性化される。太古から行われてきた聖地巡礼の意味は、人が自分を見つめ直したり生まれ変わったりするということだけでなく、地球を元気にするという意味も秘められているのではないだろうか。

(完)

 

  付記(新GPSシステムの紹介)

 レイラインハンティングに不可欠なツールであるGPS。ぼくは、もっぱらハンディGPSのベストセラー機であるGARMINのeTrex Vista日本版を愛用している。

 今回の取材から、そのVistaにインストールする日本詳細地図(マップソース)を使い始めた。これは、2万5千分の一縮尺の全国地図で、必要なエリアだけVistaにインストールして使うもの。

 レイラインを数値的に、客観的に判断するためのツールとして以外に、ツーリングやドライブ、そしてトレッキングでも非常に重宝している。

 

6/6

HOME






Copyright (c) 2002 Leyline Hunting Project. All rights reserved.