稲荷を後にして稲荷に出迎えられる

 息栖神社は、香取神社から見て、正確に東に位置している。香取神社の座標が「北緯35°52′58″、東経140°31′55″」に対し、息栖神社は「北緯35°52′57″、 東経140°37′41″」、わずか1秒、距離にして30mあまりの差にすぎない。

 1000年をはるかに越える昔に創建された関連の深い社が、直線距離で9kmあまりも離れていながら、 南北でわずか1秒の誤差で東西に並んでいる。1秒、30mといえば、ぼくがGPSで測定した地点をほんのわずかにずらすだけで、この程度は簡単にずれてしまう。 ぼくは最新のGPSを使用しているが、それでも測定誤差は10mあまりあるのだ。厳密に本殿の祭神が祭られている場所を結んだら、もっと少ない誤差に収まる可能性すらある。 昔の人は、どうやってこの座標を割り出したのだろう?

 香取神宮の本殿の横に立ち、次の目標地点である息栖神社へのナビゲーションをセットすると、コンパスの針はもちろん、完璧に東を指す。オートバイのエンジンをかけ、 GPSの指示にしたがって進んでいくと、太古の人々に導かれているような、不思議な意識にとらわれてはじめた。彼らは、GPSという最新機器を通して、 何かの意志を伝えようとしているのではないか? そんな予感。何かのメッセージがそこに示されているのに、 ぼくはその意味をうまく読み取ることができない……真東を指すコンパスの矢印を見下ろしながら、もどかしさと、 息栖へ行けばそのメッセージがはっきりするのではないかという期待がない混ぜになっていた。

  香取と息栖の間には、利根川と常陸利根川の二つの川が弧を描きながら横切っている。そのため大きく迂回を余儀なくさせられるのがもどかしい。ルートは、 弧に沿って利根川の南岸を移動し、小見川大橋と息栖大橋を渡ってアプローチしていくことになる。  息栖大橋(関東P47-C1)を渡ると、北の川沿いにこんもりとした森が見えてきた。そこが目指す息栖神社であることはすぐにわかった。 のどかな田園地帯を抜け、息栖神社の神域へと入っていく。

  大鳥居の手前にバイクを止め、参道を見ると、鳥栖神社の境内へ向かうのと反対にも通りを横切って続いている。 そして、その先、川の辺にも鳥居が建っている。これは、息栖神社の一の鳥居だ。  まずは、本殿のほうへ向かう。

  大鳥居を越えて、まず目に飛び込んできたのは、左手に安置された稲荷神社だ。立派な赤い鳥居が並び、その奥の社もかなり立派なものだ。 「ここにもやっぱり稲荷神社が……」、思わず呟く。香取神宮でも不思議に思ったが、こちらはさらに意味ありげで、 好奇心をそそられる。稲荷信仰にも、どこか太古の信仰に通じるアニミズムめいたところがあるが、その側面からも、 香取神宮と息栖神社の関係をいずれ調べてみたい。

  稲荷神社と並んで、「力石」がある。ここでもやはり、石だ。ただし、この力石は御神体というわけではなく、 春秋の祭りのときに若者たちが、この石を持ち上げて力を競う神事に使われたものだそうだ。稲荷神社は、男女の縁を取り持つ和合の神でもあるが、 この境内に力自慢の若者が集まり、それを見物に訪れた娘を見初め、稲荷の鳥居を潜って...なんてこともあったに違いない。基本的に、 神社に祭られている神は、おおらかなのだ。

トライアングルの底辺にあたる香取=息栖ラインは、完璧に東西を結んでいる。その誤差は1秒以下だ!

落ち着いた佇まいを見せる息栖神社。神門を潜ると、すぐ左手に稲荷神社が祭られている。そして、稲荷神社の横には、若者たちが力を競った「力石」と、芭蕉の句碑が並んでいる

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